フールはエレンコスを連れてパンドラの元へ戻ってきた。


ただいま。
犬に権化しているために、人間に向かって言葉を伝えることはできなかったが、神族が相手なら会話することができるエレンコスだった。

おまえ、一体どこに行っていたんだい?

この世界の外。

楽しかったのかい?

人間に拾われて、家に閉じ込められてしまったから、こことそんなにかわらないわよ。こんなことなら人間に変態しておけばいろいろ探訪できたのに。

そうかい。でもまぁ、めんどうくさいことにならなくてよかったことよ。

あ、でもね、ドッグフードおいしかったよ。おやつもいっぱいもらったし。こっちの世界では食料の心配がいらないかわりに、食べる楽しみがないのよね。あっちでは食べないと衰弱してしまうから、たくさん食べてちょっと太ってしまったわ。


へぇ~エレンは食いしん坊なんだ。
フールが口をはさんだ。

何よあんた、年下でしょう?いきなり略称で呼び捨て?エレンコス姉さんと呼びなさいよ。

堅苦しいのは名前だけにして、お互い親しみ合おうよ。

何バカみたいなこと言ってるのよ。

言われなくても僕はフールだし、もとよりバカみたいなことしか言えないんだ。エレンコスって理屈でやり込めるって意味なんでしょ?ボクこわい~。エレンでいいじゃん。

ちがうわよ『崇高な理解に至る崇高な対話』という崇高なる意味がこの名前に込められているの。曲解しないでちょうだい。
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こわすぎるぅ・・・

なんとまぁ、軽いのと重いのとめんどうくさい子どもたちだ。フールは本当にプロメテウスの子かい?この軽薄な性格はまさかエピメテウスの隠し子じゃないだろうね。

いや、それはない。この子は本来4千歳くらいの立派な神になっているはずなんだが、あの時私のために永遠の幼生神にされてしまったから、いつまでも幼いまんまなんだよ。

ああ、あの狂科学者なヘーパイストスの使えない研究の実験台にされたんだったな、この坊主は。


あいつはこういう映画に出てくるような科学者のイメージよりも寝取られ神のイメージの方が強いけどな。

あはは、それもそうだ。しかしあいつは、このわたしという美貌の神を試験管で神工的に創り上げたのだから、それなりに科学者としての腕はいいってもんだろう。


まぁ、私たち親子がこうしてかろうじて生きているのもあの者のおかげでもあるから、感謝せねばだな。

フールって4千歳だったの?何でこんな性別も分別もないバカな子どものままなのよ。

これにはいろいろわけがるんだ。パパと現帝がケンカしちゃって・・・

そんな単純な話ではないぞ。

そうだよね、そもそも神さまが不死になって増え続けたってのが問題だよね。

何とかしろと現帝に命令されたヘーパイストスの苦悩も並大抵ではなかっただろう。

さて、そろそろお客さんがくるころだ。

誰?お客さんて。

ほれ、あそこに。

あ、マンガラおじさん。

あれはブロンテスか?

そう、キュクロプスの三男ブロンテス。またの名をアグニ。今は火星のマンガラとしてインド占星術の中に生き残っている古い神だよ。インドラに従ってここにいる。ヘーパイストスの師匠だ。

あれ?キュクロプスってこんな感じじゃなかったっけ?


進撃の一つ目巨人か?こりゃ、怖すぎるだろ。

パンドラひさしぶりだな。

ああ、プロメテウスがここにやって来るなんてことがなかったら、おまえさんを呼び出すこともなかっただろう。

なに?プロメテウスがいるのか?どこだ?

ここだ

なんてところにいる・・・ああ、そうだったな。現帝の怒りを買ったんだったな。それでそんなことになったのか。それでもよかった、またこうして会うことができた。我々神族はどんな形をしていても神格はかわらないから。

いや、ところが私の場合は特殊で、私の神格は別の神格と共存しているのだ。

ケイローンか?


そうだ、徳の高い彼と共存しているおかげで、私の心は落ち着いているよ。

私は無の境地にいる。このまま静観をつづけるよ。

お、主体が変わると石の色が変わるのか。おまえさんも、とばっちりでたいへんだったな。

こんな複雑な話のいきさつを、この坊主に話して聞かせようと思ってな。それでおまえさんに来てもらったんだ。

はじめまして。ぼくフールです。

何だ、幼生か・・・ん?誰の子だ?まさかパンドラ・・・

この次元で子が生まれるわけがないだろう?そやつはプロメテウスが4千年前に地上でつくった子どもだ。

幼生が4千歳ってありえないだろう?

だから、そこも含めて最初から、神々の話を物語ろうじゃないか。ゆっくりとな。

では、鉄囲山の中にいれてもうらうぞ。

おぅ、ここが人間界と天界の境目だよ。いざ、九山八海へ。
つづく
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